「七つの最高峰」 世界はなんと美しいことか

七つの最高峰それまでの人生で手に入れられなかったものを探しに出かけたふたりの男の物語

販売元:文藝春秋
発売日:1995-08
おすすめ度:3.5

5年ほど前に読んだ本なのだが、いまだに私の心に焦げ付いてはなれないので取り上げておきたい。


7つの最高峰とは、セブン・サミッツともよばれる、世界7大陸の最高峰のことである。
これに全部登ることを、七大陸最高峰登頂=セブン・サミッターとよぶ。登山家にとっての大きな目標としてよく知られている。日本では、田部井淳子が世界で初めて女性としてエベレストに登ったあと、七大陸最高峰も最初に極めている。最近では、野口健が世界最年少(当時)で制覇したことで知られる。最近よく名前があがる栗城史多が挑戦しているのもこれである。

この本はその7大陸最高峰に「初めて」 登ったディック・バスと、仲間のフランク・ウェルズの挑戦の手記である。
話の腰を折ると、7大陸最高峰というのは、エベレスト以外はべつに誰でものぼれる(ただし南極はお金がかかる)という山であって、冒険的な価値は殆どない。なので、先代の登山家は、大陸それぞれの最高峰に登るということに意味は見出してなかったし、当然「7大陸」なんていう言葉もなかった。

しかし、そこに、ディックとフランクは、7大陸最高峰を極めたらすごいぜ!というアイデアを発明して世間にアピールしたのだ。そして、それ以来、世界中の登山家がこのゲームに夢中になっているのである。
実は、この2人単なるアマチュア。山なんか登ったことが全くなかった素人であった。
ディックは、テキサスの大富豪、フランクはワーナー・ブラザーズの社長。なので、金だけはある。

二人はもう50歳をすぎていた。
2人は、お金はあったが、人生の生きる意味を失いかけていたのだ。
そこに、たまたま登ったマッキンリーでディックが登山のすばらしさに目覚める。

「僕らは世界の何もみていないんじゃないか」
「そうだ。世界は7つの大陸があるというに、ぼくらはアメリカのそれもほんの少しのぶぶんしかみたことがない」
「世界の7つの大陸、それぞれの一番高いところから、世界をみたら、どうなふうにみえるだろうか?すべてがみわたせるのではないか?」
「やってみようじゃないか」

と言って始まった。
中年のオヤジの夢である。
この本は、登山の本ではあるが、中年オヤジの夢追い物語なのである。

山にまったく登ったことのなかった中年オヤジが、なんとかして、世界最高峰(エベレストも!)を極めるシーンがクライマックスだ。

シリアスな登山界やプロの冒険家からは「ガイドをつけての金持ちの大名登山」「冒険としての価値は何一つない」「登山を商業化した」と非難されまくったのだが、僕は別の視点からみている。
これはプロの冒険ではなく、50を過ぎたオヤジの、パーソナルな、自分たちの生き方への冒険だったのだ。

すべてのページから、純粋で、好奇心に満ちて、ほんとうに心の底から人生を楽しんでいる姿がつたわってくる。単なる思いつきから始まったとしても、たとえ、有り余るほどのお金があったとしても、こうやって夢を実現できるひとは、実際はすくない。

誰しもが、なにかの夢を描くが、途中であきらめてしまう。勇気をもって行動してみることは、そのひとにとっては冒険だ。その夢がパーソナルなものでも、その人生にとっては冒険なのである。

純粋に夢を追い求める2人の姿に、僕は心から胸を打たれたのである。

とりわけ、彼らが、なぜセブンサミッツに登るのか、という理由のところで、引用した詩の一節には、深く心をうごかされた。


ロバート・サーヴィスの詩。「転がる石」だ。
子供のきらきらと輝く好奇のまなざしで
世の中のすべてを見るように
人生をかみしめるように
荒まく海から高原までも
裏町の路地も野生の王国も
赤く輝く星から一粒の砂までも
すべてを飲み込むほど偉大なものも
信じられないほど小さなものも
なにかを持ってそこにあるんだ
わたしはそのすべてをこの目で見たい

ロバート・サービス 『転がる石』
僕が生きている意味はこれなのだ。

そのすべてをこの目でみるために、僕はいきているのだ。



世界は、なんと美しいことか。

*1かつてオーストラリア大陸最高峰は、コウジスコという山であったが、これはスキー場から登っていける2000m足らずの山であり、最高峰に相応しくないという意見があった。そこで、オーストラリア大陸だけではなく、オセアニア地域全体での最高峰という概念になり、現在では、オセアニア地域最高峰として、イリアンジャヤにあるカルステンツ・ピラミッドに登るのが一般的になっている。 

【ノマド研究所5期会員募集のお知らせ】人生は短いです。あーやりたい事があるのに、何か思い切って一歩を踏み出せない自分にいらいらする、もっと自由に生き見たいのに。ノマド研は、ノマド的な生き方を志向するひと、ノマド的な生き方を実践するひとのネットワークです。400名以上の価値観のちかいメンバーと一緒に語らいましょう。⇒ご案内