終身雇用ありなしx社畜ありなしのマトリクスで整理するブラック企業論のすべて

今日のツイッターでは、今野氏をはじめまたブラック企業の話が盛り上がった。ブラック企業については、城氏が指摘するこの記事がほぼすべてであろうとおもう。私もこの意見に賛同する。

そこで、こういった状況をまとめて、非常にわかりやすいマトリクスにした。
これを見ればブラック企業論がたちまちにわかる(はず)。

なお、この記事を公開後、今野氏より、このマトリクスは今野氏が雑誌に掲載したものと一緒だという指摘*1と、ブラック企業のところは今野氏の本に同様の記述がある旨の指摘*2をうけた。
このマトリクスは朝の議論をよんで、先ほど考えたマトリクスであるが、同じものが以前発表されているということは、もうこの話は私が知らなかっただけで、当たり前のフレームワークなのかもしれない。

名称未設定まずマトリクスの横軸を説明しよう。

横軸は、「雇用の保障」。一言で言って終身雇用を提供するかしないかである。

マトリクスの縦軸は、「労使における人事権の強さ」だ。人事権の強さといってもわかりにくいので、社畜を強要できるかいなか、と考えればよいだろう。ようするに、サービズ残業や、過剰な残業、職務外の行事への参加、職務外の仕事や配置の転換や転勤といったものを命令できる強さがあるかどうか。
強いは、社畜型の労働の企業。弱いは、契約が優先されるドライな関係だ。

これでマトリクスをつくると、企業を4つのタイプにわけることができる。*注

解説しよう。

①日本型雇用
このタイプの企業は、他のどんなことよりも雇用を守るということを優先して考える。終身雇用がまもられるなら、他のことは少々我慢してもいいでしょう。とにかく雇用を守ることを全てに優先しましょうというのがこのタイプ。

その不都合というのは、つまり、城氏が指摘しているように、「我々日本人は、長時間残業や有給取得率の低さ、全国転勤といった就労条件の劣悪さと、終身雇用という有難味を天秤にかけ、全体としては後者を選択してきたとも言える」ということだ。

もちろん労働条件が良いに越したことはないが、採用した社員を全員定年まで雇うのは容易なことではない。解雇できないということは、人員調整をしないということだから、暇な時は人があまるが忙しいときも人を増やせないのでサービス残業で対応する。年1900時間の残業をしてもOKという合意を労使が結ぶ(大日本印刷)。

中高年の雇用を守りために、新卒採用を抑制したり、若年層の給与は安く抑えられる。そして、なるべく非正規や派遣に置き換える。

官庁も実はそうで、かれらの残業の度合いはブラック企業も真っ青である。その代わり彼らは天下り先、出向先、あらゆる税金をつかって自分たちの雇用を保障する。それが保障されなければ、あのような長時間労働に耐えられない。だから、政治家がいくら切り込んでも跳ね返されるだけなのである。

つまり、日本で問題になっているような労働条件の悪化は、すべて終身雇用をまもるための、苦肉の方策であり、それをうけいれても終身雇用をまもりたい企業がこの①のタイプである。

2,3は飛ばして、先に、④について解説しよう。

④米国型

これは①の真反対である。おもに米国企業がとっているような労働体型だ。
雇用については保障しません。人が足りなくなったら雇い、要らなくなったら解雇しますというのが原則である。元アップルの松井さんは、アップルに入社するときに「当社はいかなる理由であれあなたを解雇することができます」という誓約書にサインさせられたそうだ。

その代わり、決められた職務外の仕事をする必要はないし、時間外に労働する必要もない。休日に出勤する意味もない。労働というのは、会社に労働を提供する「契約」だというふうに捉えられるから、契約外のことをする義務もないし、会社もそれを命令できない。命令すれば違法である。

配置転換は拒否できる、というより、そういう概念がなく、新しい人をやとって、不要な人を解雇するので、転換する必要すらない。

人員整理ができるかわりに、労働環境については、原理原則をまもりますよ、というのがこのタイプだ。

(ツッコミとして、米国型も解雇自由は嘘だという指摘もあり正しい。米国でも工場労働者などのブルーカラーは工場の閉鎖などの事案がない限り勝手に解雇はできない。これについては最後にのべる)

以上のように①と④は、それなりにつじつまがあっている。①は、雇用を死守するかわりに他の不都合なことを受け入れる。④は、労働を契約と考えそれを順守するかわりに契約の解除(解雇)も自由である。

では、②と③はどうか?

③ブラック企業

雇用が保障されてもいないのに、雇用が保証された企業とおなじようなガマンや不都合を社員に強要するようなものだ。経営者にとってはこんな都合のよいものはない。経営者にとって、日本型雇用の都合のよいところだけを切り取ったものであり、社員にとっては悪いところどりだ*2(今野晴貴「ブラック企業」)。

経営者としては、あたかも雇用が保障されているようにふるまう。実際には社員はやめさせられたり解雇されたりすることが日常茶飯事なのだが、「正社員だから」ということでごまかしている。そして、「正社員」という言葉をうまく使い、正社員なのだから、残業は当たり前、休日出勤は当たり前、会社のためになんでもしなさいという。

そして、若いうちは修行しろということで、給与も安い。

これは確信犯的な詐欺だ。

①の企業では、雇用の保障と引き換えに労働条件の悪化をうけいれてきたが、③ブラック企業では雇用も保障されないのに悪い労働条件を受け入れざる得ない。

①の企業では、将来給与が上がることを前提に若年者の給与はひくくなっていたのだが、③ブラック企業ではそれをうまく言い訳にして、将来の昇給なんてないのに、「いつか役員になれる」とかいって、いまの給与を買い叩く。

要するに「終身雇用」「正社員」「役員」といった実際には提供できないエサをつかって、社員を買い叩くという企業だ。そしてその挙句に、いらなくなったらポイ捨てする。

なおベンチャー企業にブラックが多いのは、ホントは④米国型がいいのだが、建前上は雇用保障を目指すといったほうが人は集まるし、また経営者の技量的に④米国型の仕組みで回せるほどマネジメントが洗練されてないという事情だといえる。

②は、夢のホワイト企業だ。

残業などもなく、誰もが心地よく働けて、さらに社員は終身雇用と年功の賃金が保障される。夢の様な体制だ。このような企業が存在するのかはわからなが、かつての超高度成長期の日本企業では、一時的にこういう状態があったかもしれない。

もしくは、凄まじくもうかっている独占企業などは、このような処遇を実現できるかもしれないし、とても優秀で正義感のある経営者がこういう企業を目指して頑張るかもしれない。

もしくは、共産主義国家の公務員か。

<ブラック企業論を整理する>

ブラック企業については、いろんなひとがいろんなことを言っているが、このマトリクスをみれば誰が何をいっているのかはわかるのではないかとおもう。

ほとんどの論者はなにも①日本型雇用のあり方を問題視しているわけではない。終身雇用が実現できて、社員が労働条件をガマンできるならそれでもよい。いままではそうだった。

しかし、経済成長が前提だった①日本型雇用のありかたが、維持できなくなくなり、意図はしていないのだろうが③ブラック企業に近づいてきているのではということだ。

現在の大企業は表向きは雇用をまもるといっていても、実際は守ることができない状況においこまれて、リストラも行わざるえない。かといって、やっぱり雇用を守ることが前提だから、そのために他のことはガマンするし、労働条件が悪化するのも許容せざる得ない。

つまり、悪いところどりになっている③ブラック企業にどんどんシフトし近づいているという指摘がある*3。これが企業のブラック化だ。

この状況のなかで、「解雇規制緩和論者」の主張はこうだ。

最終的に、このマトリクスのなかでつじつまがあっているのは左上の①日本型雇用と、右下の④米国型だけである。なので、①日本型雇用ができないなら、③ブラック企業の状態を早急に解消し、早めに④米国型にシフトせざる得ないのではないか。

①日本型雇用が維持できたのは戦後の高度成長という特別な要因のお陰であり、現在では④米国型を主軸にしていくほかないという議論だ。

なお、解雇規制に反対するひとは、規制が緩くなったら、それをいいことに、もはや③ブラック企業と同然になった多くの企業が、過去の約束を保護にし、社畜を強要するだけ強要した挙句に労働者をポイ捨する行為が、加速するという指摘がある。

一方「昭和の復活」を願うひとの議論は簡単である。①日本型雇用を守れだ。どうやって守るのかはわからないが・・・もういちど高度経済成長がくれば守れるかもしれない。

さらに左翼が復活して「労働法絶対論者」に化けて出てきた。

この論者はとにかく労働法規をまもることを第一におく。ブラックの定義には、労基法違反をしているかしてないか一点に単純化される。そうすると、③だけはなく①の日本型雇用ですらブラックということになってしまう。

結局、②の夢のホワイト企業か、④の米国型しかない。ただ、4の方法では実現したくないという左翼的な前提があるらしいので、②夢のホワイト企業のみが許されるというユートピア思想になる。

そして、それができないのは経営者の心構えや資質、能力のせいだということにして、すべての責任を経営者になすりつけて糾弾する。

もちろん②夢のホワイト企業を実現できる企業も少なからずあるし、そういう企業をつくった立派な経営者もいるかもしれないが。

 <私の主張>

私の主張は、日本でも、時間外労働無制限で働く、エグゼンプトと、単純な事務処理やブルーカラー労働を提供するノンエグゼンプトに分けることだ。これが明確に分かれてないのが、日本の労働議論をややこしくさせている現況だ。

そして、エグゼンプトには、冗談のようだがブラック労働をしてもらう。マッキンゼーのコンサルタントやベンチャー企業の幹部なんかは、長時間労働であるが、決してブラックではない。かれらに労働規制はなじまない。その代わり高給だったり、上場益を享受してもらう。解雇は理由があるなしにかかわらず、自由にできる。

ノンエグゼンプトは、ホワイト労働をしてもらう。有給100%消化はあたりまえ、残業も、休日出勤もなく、雇用も基本的に保障され、育休も、産休も絶対だ。ただし、給与は低く、昇給はない。これをホワイト300ジョブとして提言している。どうやら多くの日本人に必要なのはこのタイプの仕事のようだ。

現状の大企業の正社員は、エグゼンプトという位置づけに明確にして、年功給を廃止するとともに、解雇自由にして人員を整理する。同時に、非正規雇用は正社員という立場で雇用し、ノンエグゼンプトとを適用するかわりに昇給をなくす。

*1 今野晴貴氏のPOSSE 10月号に同じマトリクスが掲載されているとのことです。

*2  今野晴貴氏の「ブラック企業」185p/第7章「日本型雇用が生み出したブラック企業の構造。

*3  日本の企業はなぜブラック企業になるのか?

(注)なお、これ以外に、ヤクザの経営する企業のような、本当のブラック企業もある(城氏の記事)。これは本当の確信犯でブラックをやっているので、これが排除されることは誰もが合意できるところであろう。

 過去に、ブラック企業関係で書いた記事です。ぜひこちらもお読みください。

ユニクロがブラックな本当の理由。キャリアの分断にみるユニクロの真の闇
ユニクロがブラックな本当の理由その2。柳井さんのしかけた<店長無理ゲー>という登用制度
「正社員」という身分制度が、ブラック労働を生んだ。
ユニクロブラック論は単純な労働問題ではない、本当の問題は採用の失敗であることに気づくべき

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